理学療法の臨床判断のパラダイムにおけるイノベーションを目指して
木村 貞治
信州大学 医学部保健学科 理学療法学専攻 教授
基調講演では、「理学療法の臨床判断のパラダイムにおけるイノベーションを目指して」というテーマでお話をさせていただきます。このテーマは、「いのち輝く未来社会の理学療法デザイン~近畿からのイノベーション~」という本学術大会のテーマを受けて考えてみました。「イノベーション」とは、物事の「新機軸」「新しい捉え方」「新しい活用法」などと位置付けられ、新たな技術や考え方を取り入れて、新たな価値を生み出して社会的に大きな変化を起こすことを指すとされています。それでは、理学療法の臨床判断におけるパラダイムすなわち概念的枠組みにおけるイノベーションとは、どのような事柄なのかについて考えてみたいと思います。まずは、根拠に基づく実践(Evidence-based Practice, EBP)の概念を基盤として理学療法における臨床判断(clinical decision making)のパラダイムについて考えると、「①理学療法士の臨床能力(知識、技能、中立的な経験則)、②施設の環境(人的・物理的)、そして、③対象者や家族の意向・価値観・生活様式などの要素に、もう一つ、④質の高い臨床研究の実証結果であるエビデンス“も”加えて、目の前の対象者にとって最も適した評価・治療・指導の方針に関する判断を下すこと」と位置付けられると思います。このような臨床判断のパラダイムから考えた場合のイノベーションとは何かというと、決して真新しい事柄ではなく、上記のパラダイムにおける4つの要素を統合した臨床判断の「論理性」と「科学性」を卒前・卒後のシームレスな学習と臨床経験の中でより高めていくことだと思います。そのためには、①臨床能力としての専門的・学際的知識や、コニュニケーション・評価・治療・指導等における臨床的技能を高めるとともに、自身の経験則を可能な範囲で可視化していくことが重要となります。②施設の環境として、人的な面では、自身の臨床判断の妥当性に関して、先輩や同僚と活発な討論を重ねることが、部門内のチーム医療の質を高める上で極めて重要だと思います。また、物理的な面では、対象者に適した評価・治療機器を選択するとともに、できるだけ対象者の生活環境を想定した物理的な環境での評価や運動学習を展開していくことが大切です。③対象者や家族の意向・価値観・生活様式としては、それぞれのニーズ、そして、心情や信条に加え、生活環境などの背景因子を的確に把握することが大変重要です。④質の高い臨床研究の実証結果であるエビデンス“も”加えた臨床判断のためには、EBPの行動様式に基づいて、対象者の臨床像に近いエビデンス(できれば二次情報)を限られた時間の中で効率よく検索・収集・分析する能力を高めていくことが大切です。また、我が国の制度・文化・風土の下で行われた理学療法の新たなエビデンスを創出することも大変重要となります。
本学術大会が視座に据えた「いのち輝く未来社会」に理学療法が貢献していくためには、これらの4つの要素を統合した臨床判断の「論理性」と「科学性」を、個人として、そして組織として、より高めていくこと、また、地道な精進によって、その輝度を生涯をかけて高め続けていくことが大変重要な課題であると思います。基調講演では、基本的な内容ではありますが、これらの内容についてお話をさせていただきたいと思います。
本学術大会が視座に据えた「いのち輝く未来社会」に理学療法が貢献していくためには、これらの4つの要素を統合した臨床判断の「論理性」と「科学性」を、個人として、そして組織として、より高めていくこと、また、地道な精進によって、その輝度を生涯をかけて高め続けていくことが大変重要な課題であると思います。基調講演では、基本的な内容ではありますが、これらの内容についてお話をさせていただきたいと思います。
- 学歴
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1981年 川崎リハビリテーション学院理学療法学科 卒業
1989年 工学院大学工学部第Ⅱ部電気工学科情報工学コース 卒業
学士(工学)
1997年 (韓国)順天郷大学校工科大学大学院修士課程電気工学科
制御工学専攻修了 修士(工学)
2000年 信州大学大学院工学系研究科博士後期課程修了 博士(工学) - 職歴
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1981年 東京厚生年金病院リハビリテーション室 入職
1993年 信州大学医療技術短期大学部理学療法学科 講師
2000年 信州大学医療技術短期大学部理学療法学科 助教授
2002年 信州大学医療技術短期大学部理学療法学科 教授
信州大学医学部保健学科理学療法学専攻 教授 - 関連領域社会活動
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一般社団法人 日本物理療法学会 理事
一般社団法人 日本アスレティックトレーニング学会 理事
公益財団法人 日本水泳連盟医事委員会連携組織日本水泳トレーナー会議 顧問 - 執筆書籍
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・木村貞治,高橋哲也,内 昌之(編集):障害別 運動療法学の基礎と臨床実践.金原出版,東京,2020.
・木村貞治,沖田 実,Goh Ah Cheng(編集):物理療法学テキスト(第3版)
・シンプル理学療法学シリーズ.細田多穂(監修).南江堂,東京,2021.
・木村貞治(編集):物理療法臨床判断ガイドブック.文光堂,東京,2007. - 本講演に関連する論文
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・木村貞治:理学療法における評価の考え方と進め方.理学療法学,47(1): 93-101, 2020
・木村貞治:EBPTの意義と実践方法.理学療法京都,45: 62-70, 2016.
・木村貞治:EBPTの実践に向けて.理学療法科学,22(1): 19-26, 2007.