The 60th Congress of the Kinki Physical Therapy in OSAKA

第60回近畿理学療法学術大会

シンポジウム:「臨床研究の展望」▷ ページを更新する

臨床研究には日々の臨床が強みになる

牧浦 大祐
神戸大学医学部附属病院 リハビリテーション部
 臨床研究には、臨床の疑問からリサーチクエスチョンを構造化し、研究デザインを作成し、データを集積・解析し、学会発表・論文作成を行うといった一連の流れが存在する。京都大学の福原俊一先生は、よいリサーチクエスチョンに求められる基準として、FIRM2NESSを提唱されている。FIRM2NESSは、Feasible(実施可能性)、Interesting(真の興味深さ)、Relevant(切実な問題)、Measurable(科学的に測定可能な)、Modifiable(要因・介入が修正可能な、アウトカムが改善可能な)、Novel(独自性)、Ethical(倫理的)、Structured(構造化された)、Specific(具体的・明確な表記を用いて)の9つの要素から構成される。臨床経験がなければ研究の実施可能性を測り知ることは難しく、何が患者や臨床現場にとって切実な問題なのかを感じとることも難しい。臨床研究を行うには臨床経験が重要であり、日々の丁寧な臨床の積み重ねが、よい臨床研究につながる。このことは至極当然のことと思われるかもしれないが、普段から臨床現場の中にいるとあまり気づかないのではないだろうか。略歴にある通り、私は養成校を卒業後すぐに大学院へ進学した。現在は大学病院に勤務しながら臨床研究を行なっているが、大学院に在籍していた時も臨床現場に出入りさせていただき、患者の臨床データを集めて臨床研究を行なっていた。これまで臨床現場の中と外、それぞれで臨床研究を行ってきた経験から、臨床研究には臨床経験が重要であることを実感している。本講演では、その経験を振り返りながら臨床研究における臨床経験の重要性について考えたい。
略歴
2008年 神戸大学医学部保健学科理学療法学専攻 卒業
2010年 神戸大学大学院保健学研究科博士前期課程 修了
2011年 神戸大学医学部附属病院リハビリテーション部 入職
2017年 神戸大学大学院保健学研究科博士後期課程 修了
代表的論文5編
・牧浦大祐,井上順一朗,斎藤貴,土井久容,薬師神公和,酒井良忠:化学療法誘発性末梢神経障害に対して16週間の外来リハビリテーションを実施し,症状緩和と身体機能の改善が得られた1症例.The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine. 2020; 57(6): 565-570.
・Makiura D, Ono R, Inoue J, Fukuta A, Kashiwa M, Miura Y, Oshikiri T, Nakamura T, Kakeji Y, Sakai Y: Impact of sarcopenia on unplanned readmission and survival after esophagectomy in patients with esophageal cancer. Ann Surg Oncol. 2018; 25: 456-464.
・牧浦大祐,小川真人,井上順一朗,土井久容,林女久美,田中秀和,酒井良忠: 化学療法による薬剤性心筋症に対して,活動量計で運動強度を評価しながら運動療法と生活指導を行い,就労に至った1症例.理学療法兵庫.2017; 23: 37-41.
・Makiura D, Ono R, Inoue J, Kashiwa M, Oshikiri T, Nakamura T, Kakeji Y, Sakai Y, Miura Y: Preoperative sarcopenia is a predictor of postoperative pulmonary complications in esophageal cancer following esophagectomy: A retrospective cohort study. J Geriatr Oncol. 2016; 7(6): 430-436.
・牧浦大祐,小野玲,井上順一朗,柏美由紀,宇佐美眞,今西達也,中村哲,黒田大介,三浦靖史:食道癌患者の周術期における身体機能と倦怠感および健康関連QOLの関連.理学療法科学.2012; 27(4): 369-474.

臨床現場で研究が行える環境を築くための工夫

西村 圭二
市立長浜病院 リハビリテーション技術科 主査
 患者に理学療法を提供するなかで、臨床研究をしたいという意欲はあっても、どのように研究を進めたらよいのかわからない、身近に相談相手がいない、研究機器が無いなど、研究を行う環境が整っておらず、実際に一歩踏み出すにはハードルが高いと感じている人は多い。私が就職した頃は、当院には研究や学会発表をするという習慣がなく、また研究機器も無かったため、決して整った環境とはいえなかった。臨床疑問をどのように解決すべきか日々悩んでいたが、環境が整っていないからできないのではなく、どうすれば自分の思うような環境に近づけられるのか、そのために何をすべきなのかを模索してきた。①臨床を疎かにせず患者と向き合う(臨床疑問を抱く)、②研究の目的を明確にする(何を明らかにしたいのか)、③研究について知識を深める(文献や学会参加などで情報収集。研究をしているPTや養成校の教員などに相談してみる)、④自ら考えを発信し周囲の理解を深める(職場の同僚や上司、医師などに考えを話し、少しずつ理解者や協力者を拡げていく。研究による利点も伝える)、⑤計測方法や機器の捉え方を見直す(高価な機器が無くても、角度計やメジャー、歩行速度、TUG、また撮影画像をパソコン上で処理しアライメントや角度を計測するなど、統一した方法で実施すれば客観的な計測は可能。必要に応じてデモ機のレンタルや購入)、⑥職場全体として研究に対する意識を高める(共に研究するスタッフを増やすために科内勉強会を開催。計測方法や技術を統一。疾患別評価表を作成し全患者のデータを計測・蓄積。患者満足度向上につなげる)。これらの働きかけにより、PT、OT、STが積極的に臨床研究や発表を行える環境を築き上げることができた。臨床研究を行うようになり、当院における治療回復状況やゴールをより明確に示すことができるようになった。また介入前後のデータを患者に明示し説明することで、指導の充実や患者満足度向上にもつながっている。さらには、セラピストも自分達の臨床に自信が持てるようになった。これらの経験が、臨床と研究の両立における環境作りの一助となれば幸いである。
略歴
2003年 滋賀医療技術専門学校 理学療法学科 卒業
市立長浜病院 リハビリテーション技術科 入職
2014年 国際シュロスセラピスト(S-C-S Training Institute)
2016年 ゴルフフィジオセラピーオフィシャルインストラクター(EAGPT)
2017年 市立長浜病院 リハビリテーション技術科 主査
骨粗鬆症マネージャー(日本骨粗鬆症学会)
代表的論文5編
◦西村圭二,北村 淳・他:腰椎骨盤固定ベルト装着による坐圧変化.2003; The Journal of Clinical Physical Therapy(6):23-26.
◦西村圭二,北村 淳・他:腰椎骨盤固定ベルト装着による頸椎運動性の検討−瞬間回転中心を考慮して−.2007;滋賀県理学療法士会学術誌(27):43-48.
◦西村圭二,北村 淳,山﨑 敦:不良姿勢に対する軸圧抵抗エクササイズが立位アライメントに与える影響.2012;滋賀県理学療法士会学術誌(32):34-39.
◦西村圭二:傷害予防に基づいた効率的なゴルフスイング動作の指導とバイオメカニクス.エキスパート理学療法1 バイオメカニクスと動作分析.福井 勉,山田英司(編),ヒューマン・プレス.2016,pp148-157.
◦西村圭二:人工股関節全置換術施行後患者の歩容改善エクササイズ.新ブラッシュアップ理学療法-新たな技術を創造する臨床家88の挑戦.福井 勉(編),ヒューマン・プレス.2017,pp197-200.

当院脊椎ケアセンターでの臨床研究

峯玉 賢和
和歌山県立医科大学附属病院紀北分院 リハビリテーション科 副主査
 患者の治療選択を行うひとつの手段としてEvidence-based medicineの手法を利用して作成された診療ガイドラインが活用できる。しかしながら、理学療法においては、十分なエビデンスが示されておらず、治療として推奨されていないということが少なくない。腰部脊柱管狭窄症診療ガイドライン2011では、理学療法の推奨GradeはI、すなわち理学療法が腰部脊柱管狭窄症に有効であるとの十分なエビデンスは得られていないとの結論であった。そこで、われわれは、週2回6週間の理学療法(徒手療法、体幹・下肢筋力増強、体重免荷トレッドミル歩行・下肢エルゴメーターをそれぞれ20分、運動指導)と運動指導のみの2群でランダム化比較試験を行い、理学療法の介入効果について検証を行った。6週後の結果は、下肢痛、歩行距離、Quality of Lifeにおいて、理学療法群は運動指導群に比べ、有意な改善が得られていた(Minetama M, et al. Spine J 2019)。また、1年後においても、理学療法群は、腰部脊柱管狭窄症の重症度、身体機能の評価項目において運動指導群よりも有意な改善を示しており、手術移行率は運動指導群よりも低いことが明らかとなった(Minetama M, et al. Clin Rehabil 2021)。
 当院の脊椎ケアセンターでは、手術を受ける患者に対して手術前後でアンケート調査を行い、治療成績を評価している。理学療法では、理学療法開始時に歩行速度や握力、アンケート調査を行い、客観的な指標で患者評価を行い、データを蓄積している。また、慢性腰痛や椎体骨折患者に対する運動療法においては前向き研究を行い、治療成績を評価している。これらのように、日々の臨床のデータを蓄積し、発信していくことが、今後の理学療法の発展において極めて重要であると考えている。本シンポジウムでは、当院での取り組みについて紹介させていただき、臨床研究を始めるきっかけになれば幸甚である。
略歴
2006年 大阪リハビリテーション専門学校 理学療法学科 卒業
琴の浦リハビリテーションセンター リハビリテーション部 入職
2013年 和歌山県立医科大学大学院 医学研究科 修士課程 修了
2014年 和歌山県立医科大学附属病院紀北分院 リハビリテーション科 入職
2015年 日本理学療法士協会 認定理学療法士(運動器) 取得
2018年 和歌山県立医科大学大学院 医学研究科 博士課程 修了
代表的論文5編
◦Minetama M, Kawakami M, Teraguchi M, et al. Supervised physical therapy versus unsupervised exercise for patients with lumbar spinal stenosis: 1-year follow-up of a randomized controlled trial. Clin Rehabil 2021 in press.
◦Minetama M, Kawakami M, Teraguchi M, et al. Associations between psychological factors and daily step count in patients with lumbar spinal stenosis. Physiother Theory Pract 2020 in press.
◦Minetama M, Kawakami M, Teraguchi M, et al. Therapeutic advantages of frequent physical therapy sessions for patients with lumbar spinal stenosis. Spine (Phila Pa 1976) 2020; 45(11): E639-46.
◦Minetama M, Kawakami M, Teraguchi M, et al. Supervised physical therapy vs. home exercise for patients with lumbar spinal stenosis: a randomized controlled trial. Spine J 2019; 19(8): 1310-8.
◦Minetama M, Kawakami M, Nakagawa M, et al. A comparative study of 2-year follow-up outcomes in lumbar spinal stenosis patients treated with physical therapy alone and those with surgical intervention after less successful physical therapy. J Orthop Sci 2018; 23(3): 470-6.

環境の強みを活かした研究テーマの見つけ方とアウトプットすることの意味

石橋 雄介
秋津鴻池病院 リハビリテーション部 係長
 理学療法士にとって「臨床」、「教育」、「研究」は活動の三本柱である。臨床現場で働いていると「臨床」と「教育」は、患者さんや実習生、同僚・後輩と関わる中で日々行われるが、「研究」は必ずしもやらなければいけないというものではないため、職場の風土や個人の意思が求められる。私自身は「研究がしたい」、「研究をしなければ」と漠然と思ってはいたものの、具体的な研究テーマが決められず、症例報告にとどまっていた。
 一般的に、自分が興味のあることや臨床で疑問に思っていることを研究のテーマにすれば良いとは言われるが、「自分が興味のあることが見つからない」、「臨床での疑問がありすぎて何を研究すれば良いのか分からない」という方もいるのではないだろうか。そして、すべての理学療法士が大学などの研究機関とタイアップして研究ができるような豊富なリソースを持っているわけではないため、手持ちのリソースを最大限に活用することが重要であると考える。
 私の場合、精神科の病床が多くを占める病院で働いており、精神科で理学療法を行っているという特徴が他の病院にはない強みと考え、「精神科での理学療法」を研究のテーマとした。そして、初めての論文は、過去のカルテを後方視的に調査し、今までの経験を整理する中で完成させた。このように、自身が置かれている環境を考えた時に、他にはない強みが見つかれば、それが研究テーマを決める上でのヒントになるのではないだろうか。さらに、学会発表や論文としてアウトプットすることで、同じ研究をしている仲間とつながることができ、それが次の研究へと発展し、臨床と研究活動の両立が継続できるというサイクルが回っていくと感じている。
 本シンポジウムでは、臨床で働きながら「研究に興味があるけど、どのようにテーマを決めてよいか分からない」という方に対して、自身が置かれている環境の特徴や強みを活かして研究を進めていく方法について、自身の経験をもとに話題を提供し、有意義なディスカッションになることを期待する。
略歴
2009年 星城大学 リハビリテーション学部 理学療法学専攻 卒業
秋津鴻池病院 リハビリテーション部 入職
2016年 星城大学大学院 健康支援学専攻 博士前期課程 修了
2017年 日本理学療法士協会 認定理学療法士(呼吸) 取得
代表的論文5編
・石橋雄介,西田宗幹,山田和政:精神科病棟入院患者の現状と理学療法の効果.理学療法科学.2017; (4): 509-513.
・石橋雄介,林久恵,坪内善仁,福田浩巳,洪基朝,西田宗幹:身体疾患を合併する精神疾患患者の自宅退院に関連する因子の検討.理学療法学.2018;(6): 366-372.
・石橋雄介,上薗紗映,下平貴弘,倉持正一,池田拓洋,加賀野井聖二:多施設共同研究による大腿骨近位部骨折を受傷した精神疾患患者の理学療法終了時FIM運動項目得点に影響する因子の検討.理学療法学.2019(5): 366-370.
・Uezono S, Ishibashi Y, Kuramochi S, Kaganoi S, Ikeda T, Simohira T, Katoh M: Gait Reacquisition Rate, Home Outcome Rate, and Gait Prognosis in Patients with Femoral Neck Fractures and Mental Illness-A Multicenter Study. Progress in Rehabilitation Medicine. 2020; (Advance online publication).
・Kota M, Uezono S, Ishibashi Y, Kitakaze S, Arakawa H: Relationship between whether the planned discharge destination is decided and locomotive syndrome for admitted patients in psychiatric long-term care wards. Physical Therapy Research. 2020; (Advance online publication).

論文を読み、“真似る”ことで研究はできる

浅野 大喜
日本バプテスト病院 リハビリテーション室 室長
 私が理学療法士になってから、研究を実施し、論文を書くようになるまでの経歴は、おそらく他のシンポジストの先生方とは大きく異なるのではないかと思います。一言でいえば遅咲きで、理学療法士になってから10年以上の間、研究らしいことは何もしていませんでした。それでも研究をするようになったきっかけは、日々の臨床業務に追われながら、臨床で活用できそうな知識を求めて論文を読み続けるなかで、自分が知りたいことになかなか出会うことができず、自分で調べて確かめたくなったからです。実際、研究をはじめるとなるとやり方もわからず困難を伴うと思いますが、それまで多くの論文を読み続けていたことや、現在ではネット上にも多くの参考になる情報が得られるため、それを「真似すること」で学び、見様見真似で実践するようになりました。大学院にはもし必要性を感じたときに年齢がいくつになっても行くことはできます。大学院に行かなければ研究ができないということはありません。もし今の段階で、臨床研究に興味がなかったとしても、10年後の自分はどうなっているのか、どこで何をやっているのかはわかりません。そんな不透明な状況のなかで、是非継続して行ってほしいことは、日々患者と向き合っている理学療法士として、常に最新の知識や技術を提供できるように論文だけは目を通すことです。それがいつか研究をしようと思ったときに大きく役立つと思います。これまで経験のない方もぜひいつか研究し、論文という形に残して、他の臨床で働く理学療法士や作業療法士に有益な情報を提供できたとき、これまで感じたことのない充実感が得られると思います。私個人としては「行動力」、「継続」、「独学」によって今の自分があると考えています。皆さんも自分に合ったやり方で、日々情報のインプットとアウトプットを継続していっていただきたいと思います。
略歴
2000年 広島県立保健福祉短期大学 理学療法学科 卒業
日本バプテスト病院 リハビリテーション室 入職
2015年 畿央大学大学院 健康科学研究科健康科学専攻 修士課程 修了
代表的論文5編
◦Asano D, Takeda M, Nobusako S, Morioka S. : Self-rated depressive symptoms in children and youth with and without cerebral palsy: A pilot study. Behavioral Sciences. 2020; 10(11): 167.
◦浅野大喜,瀬戸雄海,山崎千恵子,清水健太,瀬川麻衣子,小林正行:COVID-19による入院患者2例への理学療法介入報告.理学療法学.2020; 47(5): 483-490.
◦浅野大喜,信迫悟志,森岡周:障害児をもつ母親の養育態度と子どもの問題行動との関係.小児保健研究.2019; 78(4): 315-324.
◦Asano D, Morioka S. : Associations between tactile localization and motor function in children with motor deficits. International Journal of Developmental Disabilities. 2018; 64: 2: 113-119.
◦浅野大喜,森岡周:脳室周囲白質軟化症および知的障害児の行動特徴.理学療法学.2016; 43(5): 361-367.
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